AI時代に、食のクリエイティブの仕事を「仕上げ」に絞った理由

2026年1月30日

この記事の結論

食のクリエイティブの仕事の引き受け方を、根本から見直しました。

AIで効率化できる部分と、人間が手をかけて仕上げる部分を、最初に分ける。
そして、人間の判断が価値になる部分を、自分の仕事の中心に置くことにしました。

これが、Constructの4本柱のひとつ、「仕上げ」になっています。


AIと同じ土俵を降りた、その先で

私は2025年に、2010年から続けてきた食のクリエイティブ事業を、Constructへ統合しました。
背景にある判断は、別の記事「AIと同じ土俵では戦わない。2010年に創業した事業を、16年目に統合した理由」で書いています。

ただ、降りた後にも問いは残ります。

AIと同じ土俵を降りると決めた後、では自分は何を引き受けるのか。
どこからは人間の判断が必要で、どこまではAIに任せていいのか。

その答えが、食のクリエイティブにおける「仕上げ」でした。

この記事では、その具体的な引き受け方の変化を整理します。


以前の引き受け方と、そこで起きていたこと

これまでは、レシピ開発も、撮影も、店舗運営も、弁当事業も、まとめて引き受けていました。
案件の中身を、自分の判断で切り分けることなく、全部やる。

ただ、続けるうちに気づいたのは、仕事の質が、かけられる時間に依存しすぎているということでした。

どこに手をかけるか、どこは効率化できるか、どこは自分でなくてもいいのか。
これらの問いを後回しにしたまま、案件の量を回していました。


「件数が少ない仕事ほど、コストがかかる」という感覚

その感覚は、こう整理できます。

件数が少ない仕事ほど、相対的にコストがかかる。

固定的な準備時間、判断のコスト、関係者への共有のコスト。
それらは1件ごとにかかるので、件数が少ないと、1件あたりの負担が大きくなる。

引き受ける判断の単位を変えなければ、構造的に成り立たないことが、見えていました。


AIで、コスト構造が可視化された

ここに、AIが入ってきました。

これまで人間がやっていた一部の作業 ── レシピ案の生成、撮影プランのドラフト、コピーの初稿、デザインのバリエーション ── が、AIで圧倒的に短い時間で出せるようになった。

すると、コスト構造が透明化されました。

  • 1件にかかっていた時間のうち、どこまでがAIで圧縮できるか
  • どこからは、人間の判断が要るか
  • どこは、自分でなければできない仕事か

この境界が、感覚として、はっきり見えるようになりました。


一度見えたら、戻れなかった

境界が見えてしまうと、以前の引き受け方には、戻れませんでした。

「全部、人間がやる」という前提が、もう成立しなくなった。
かといって、「全部、AIに任せる」も違う。

境界の上で、引き受け方を組み直す必要があったのです。


引き受け方を、こう変えた

具体的には、2つの軸で変えました。

1. 引き受ける単位を、「仕上げ」に絞る

AIが出した答えを、現場で使える品質まで人間が整える。
レシピの最終調整、撮影の現場判断、メニューの仕上げ。

これが、私が引き受ける単位です。

AIの初稿生成や、定型的なバリエーション展開は、主価値としては引き受けません。
そこは、AIが担える領域だと考えています。

2. 価格の立て方を、判断の量で決める

時間や工数ではなく、引き受ける判断の量で価格を決める。

仕上げの判断には、「これでいいか」「これは違う」という、責任を伴う決定が含まれます。
その判断の量が、価格の根拠になる。


「仕上げ」とは何か

Constructでは、4つの仕事をしています。

  • 診断 ── 現場のズレや火種を、外から見つける
  • 予防 ── 診断で見えた火種を、火にしないように伴走する(AI・店舗IT・業務を現場で動く形にすることを含む)
  • 鎮火 ── 火が出ている現場の立て直し
  • 仕上げ ── 食のクリエイティブで、AIが出した答えを現場で使える品質まで人間が整える仕事

「仕上げ」は、食のクリエイティブのために置かれたサービスです。

レシピ検証、撮影の現場判断、メニュー開発の最終調整。

AIが大量に出してくる答えのうち、どれを採るか、どこを直すかを、人間が判断する仕事です。


引き受け方を変えた結果

クライアントワークの件数は、減りました。
ただ、1件ずつの中身は、構造的に変わっています。

  • 引き受ける判断の所在が、明確になった
  • AIで圧縮できる部分は、圧縮した
  • 人間が手をかける部分に、時間と判断を集中できるようになった

「全部やる」から「仕上げに集中する」への転換でした。


ビストロファングムは、その実証現場

2026年4月にビストロファングムという飲食を立ち上げました。
日々の運営と、料理の最終的な仕上げは、長年一緒にやってきた信頼するパートナーが担っています。

私はオーナーとして経営に関わりつつ、「AIで再現できない人間の仕事の研究」として、この現場を捉えています。

職人の判断、味の最終調整、空間の質感。
これらは、AIで再現できない領域です。

ここで起きていることを、Constructの「仕上げ」サービスのモデルとして、観察し続けています。

なお、AIに任せた後に人間が「仕上げ」を入れる構造は、食の現場に限りません。
別の記事「声は似ている。でも、何かが違う。AI音声で見えたBeyond AIの境界」でも、AI音声を使うために人間が原稿を整える話を書いています。
「仕上げ」は、食でも、音声でも、同じ構造で機能している仕事です。


どこから入るか

現場のズレが見え始めている段階なら、診断から入ります。
火種が見えている場合は、予防として伴走します。
すでに火が出ている場合は、鎮火から。
食のクリエイティブで、AIの後を整える仕事は、仕上げを見ます。


よくある質問(FAQ)

Q. 食のクリエイティブの仕事は、いまどう引き受けているのか?

A. AIで効率化できる部分は分け、人間が手をかける「仕上げ」だけを、自分の仕事として引き受けています。

Q. AIは、何を変えたのか?

A. コスト構造を可視化しました。AIで圧縮できる部分と、人間が判断する部分の境界が、はっきり見えるようになりました。

Q. 「仕上げ」とは具体的に何か?

A. AIが出した答えを、現場で使える品質まで人間が整える仕事です。レシピ検証、撮影の現場判断、メニュー開発の最終調整などです。

Q. 価格は、どう立てているのか?

A. 時間や工数ではなく、引き受ける判断の量で立てています。

Q. クライアントワークは減ったのか?

A. 件数は減りました。ただ、1件ずつの中身は構造的に変わっています。

Q. ビストロファングムは、どう関わっているか?

A. 日々の運営は株式会社Paysanne時にクリエイティブを統括していた赤沼さんが仕切っています。私はオーナーとして関わりながら、AIで再現できない人間の仕事の研究現場として観察しています。

TakafumiMurata村田崇文

村田崇文 / Takafumi Murata

株式会社Construct 代表取締役
一般社団法人ジャパンフードクリエイティブ協会 代表理事

アクセンチュア、DeNAを経て独立。
食の現場、店舗IT、グローバル小売、金融、大手EC、AIツールの検証を行き来しながら、現場のズレを判断に変える仕事をしています。

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