この記事の結論
ECやAIが進化するほど、リアルな街の価値は下がるのではなく、むしろ高まります。
人がわざわざ訪れる理由が、商品や情報ではなく、その場所でしか起きないことに移っているからです。
2026年4月、ソウルの聖水洞で、その未来を見ました。
MUSINSAは、店を作っていない。街を作っている。
MUSINSAは「店」ではなく「街」を作っている
聖水洞(ソンスドン)を歩いてみて気づいたのは、MUSINSAの戦略単位が「店舗」ではないことでした。
街全体に、MUSINSAの世界観でつながったショップが点在しています。
カフェ、セレクトショップ、ポップアップ、ライフスタイルストア。
それぞれが独立した店として営業しながら、緩やかにMUSINSAの色をまとっている。
その中心に、MUSINSA MEGA STORE SEONGSUが置かれている。
つまり、MUSINSAは聖水という街そのものをフィールドにしているのです。
街中にいろんなお店を仕掛け、来街者を街全体で回遊させている。
ここで起きていることは、ECで言う「回遊」と同じ構造です。
街を、ブラウザのように設計する
ECサイトでは、ユーザーが商品を見て回ります。
ホーム → カテゴリ → 商品ページ → 関連商品 → 特集ページ → カート。
聖水のMUSINSAは、これを街でやっている。
- 街全体 = MUSINSAのプラットフォーム
- 個々のショップ = 商品ページ・ブランドページ
- MEGA STORE = 特集ページ・ピックアップ枠
- 来街者の回遊 = ECで言うブラウジング
- 街の看板=バナー広告
MUSINSAは、街をECサイトのように設計している。
ECで成長した会社が、街そのものを次のフィールドとして使い直している。
これは、ECの延長線上で街を見る視点そのものです。
よくECサイトで見るクレジットカードのバナー広告のように、街の入り口にはカードの広告看板がありました。
なぜEC企業が、街に戻ってきたのか
ECは便利です。
検索で商品が出てくる。翌日には届く。AIが推薦してくれる。
ただ、ECには決定的に欠けているものがあります。
回遊する身体感覚です。
- 通りを歩く
- 偶然のショップに出会う
- 店員と話す
- 街の空気を吸う
この体験は、ECでは作れません。
そして、AIが進化するほど、この「効率では作れない体験」の価値が相対的に高まる。
MUSINSAは、それを取りに来た。
店舗を増やしに来たのではなく、街そのものを設計しに来たのだと思いました。
日本の商業施設は、まだ「単独の箱」を作っている
日本の大型商業施設の多くは、いまも「箱」として設計されています。
- フロアごとにジャンル分け
- 通路の動線は効率重視
- 装飾は季節イベント
- 街と切り離されたビル単体
これは、「ECの逆」をつくれているわけではなく、ECにも街にも振り切れていない中間的な状態に見えます。
ECほど効率的ではなく、街ほど偶然や回遊を生みにくい。
EC・AI時代に必要なのは、「街の延長」として設計された商業空間です。
聖水のMUSINSAは、それを街そのものでやっている。
日本でも、商業施設の単位を「箱」から「街」へずらせる場所はあります。
渋谷、原宿、聖水のように再生された旧工業地区、地方の旧市街。
ただ、設計の前提が「箱」のままだと、聖水のような体験は作れません。
グローバル小売の現場から見ると
直近では、グローバル小売の店舗IT導入に関わり、複数国・2000店舗超の現場で、計画が実際に動くところまで見てきました。
その現場から見ると、店舗とは「商品を売る場所」ではなく、「街と来街者の関係を編集する場所」です。
さまざまなデジタル施策は、その編集を動かす装置にすぎません。
聖水のMUSINSAは、その装置の使い方を、街全体の回遊を設計する前提で組み直していました。
EC・AI時代のまちづくり、5つの設計原則
聖水での観察と、日本の現場で見てきたズレを重ねると、原則は5つに絞れます。
1. 単位を「店」から「街」へ広げる
店舗単体の収益最大化ではなく、街全体の回遊を設計する。
2. 街を、ECサイトのように使う
来街者がどう回遊するか、ECのUXフローと同じ精度で設計する。
3. 「特集ページ」と「商品ページ」の役割を分ける
旗艦店だけでなく、街に分散した小規模店との役割分担を作る。
4. 通路を、効率ではなく歩く動機で設計する
動線の最短化より、回遊の理由を増やす。
5. SNS拡散を、回遊の連鎖として組み込む
偶然の拡散ではなく、街全体で「拡散される構図」を作る。
これらは、ECやAIが進化するほど効いてくる原則です。
街は、AI時代に死なない、むしろ可能性を感じる。
ECやAIの進化は、街を消すと言われてきました。
しかし、私が現場で見てきたのは、逆です。
ECとAIが効率を引き受けるほど、街には「効率では作れないもの」が集まります。
人と人が出会う偶然。
歩いた距離が記憶になる時間。
その街の空気でしか起きない判断。
聖水で見たのは、EC企業が、街そのものをプラットフォームに変えに来た風景でした。
日本のまちづくり・商業施設の未来は、ここから始まります。
街、商業施設、EC、AIの関係を考えるとき、最後に必要になるのは現場での観察です。
このテーマについての講演・取材・事業相談は、お問い合わせよりご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ECが進化したら、リアル店舗は不要になるのではないか?
A. 逆です。ECが効率を引き受けるほど、街は「効率では作れない価値」を担う場所になります。
Q. 聖水洞のMUSINSAは、何が他と違うのか?
A. 個別店舗ではなく、街全体をプラットフォームとして設計している点です。MEGA STOREは「特集ページ」のような位置づけです。
Q. 「街をブラウザのように使う」とは、どういう意味か?
A. ECの回遊(ブラウジング)を、街全体で実現するという意味です。駅がホーム、通りがカテゴリ、ショップが商品ページとして機能します。
Q. 日本の商業施設で、すぐに変えられることは?
A. 設計単位を「箱」から「街」へ広げることです。商業施設単体の最適化から、街全体の回遊設計に視点を移します。
Q. なぜEC企業が、街に戻ってきたのか?
A. ECで埋められない「回遊する身体感覚」を取りに来たからです。AIが進化するほど、この価値は相対的に高まります。
Q. AI時代の商業施設で、人間にしかできない仕事は何か?
A. 街の文脈を読み、回遊の流れを設計に翻訳することです。これはAIには代替できません。
Q. MUSINSAの店はどこにありますか?
A. ソウルの聖水と呼ばれる場所にあります。グーグルマップではこちらになります。